インテリアコーディネーターの視点でみた『ピカソ meets ポール・スミス』展 色の空間の楽しむ

国立新美術館で開催中の『ピカソ meets ポール・スミス』展(https://www.nact.jp/exhibition_special/2026/picasso_paulsmith/)へ行ってきました。

ピカソ没後50年を記念する本展は、世界的ファッションデザイナーであるポール・スミス氏がキュレーションを手掛けています。ピカソの素晴らしい絵画を楽しめるのはもちろんですが、この展示の最大の魅力は「室内の色や柄が変わることで、私たちの感覚がどう変化するか」を体感できる点にあります。今回は作品ではなく、インテリアコーディネーターはこう感じたという視点で、空間展示をご紹介したいと思います。

■ 白から暗紺色へ:視線を誘導する落差の演出

展示はまず、美術館らしい真っ白な空間から始まります。そして次に入るのが、暗い紺色の部屋。天井からの照明の影響を遮るためにネットが張られ、床にも紺色の絨毯が敷き詰められた、とても静かな印象の空間です。白い空間から暗い部屋へと入ったときの「落差」によって、視線が自然と正面の絵画にぐっと引き込まれる見事な演出でした。

■ ポール・スミス流のピンク:補色と残像の体感

続いては、ピカソの描く女性のモチーフが並ぶピンクの部屋です。暗いところから一気に躍動感のある空間に入るときのワクワク感は、ポール・スミス氏ならではの遊び心を感じさせます。

演出としてはとても面白いと思いましたが、インテリアコーディネーターの視点で見ると少し気になる点もありました。途中から鮮やかなピンク色ばかりの壁を見ていると、目がチカチカしてきて、女性の顔の色よりもピンクの方が強くなり、肝心の絵画の色が少し鈍く見えてしまったのです。

もし壁の色で女性の肌色を美しく見せたいのであれば、この鮮やかなピンクは避けるべきでした。なぜなら、人間の目はピンク色を見続けると、その「補色(反対色)」である緑色を無意識に作り出してしまうため、結果として肌色が悪く見えてしまうからです。以前、色彩の本で「美容院の壁をピンクにしたためにお客様の顔色が悪く見えてしまった」という失敗談を読んだことがありますが、まさにその現象を身をもって体験できる場所になっていました。

■ ベージュの部屋:目の反応に気づく瞬間

次の部屋はベージュの空間です。鮮やかなピンク色から落ち着いたベージュの空間に入ったとき、ホッとすると同時に不思議な現象が起きました。前のピンク色をずっと見ていたために目に緑色の残像が残り、この部屋に入った瞬間、壁が少し「緑がかったベージュ」に見えたのです。しばらくすると元の色に戻るのですが、自分の目の反応を改めて実感する面白い体験でした。ベージュの壁は絵画とすっと馴染んでおり、穏やかな気持ちで作品と向き合うことができました。

■ ワクワクが止まらない!柄とコラージュの部屋

一筆書きのような楽しいイラストが白い壁に描かれた休憩空間(次の部屋をのぞける窓があいていて、ワクワクする工夫がされています!)を抜けると、私が今回一番好きだと思った「コラージュの部屋」が現れます。

普段の住宅コーディネートでは絶対に組み合わせないような大胆な柄の壁紙がストライプ状にリピートされており、なんとも言えない素敵な空間に仕上がっていました。この部屋に入ったときの高揚感はたまりません!展示されている楽しいコラージュ作品と、個性的な壁の柄との組み合わせが絶妙なのです。どのような基準でこの壁紙を選んだのか、とても気になりました。インテリア好きの方なら、間違いなく楽しめる空間だと思います。

■ 絵画と空間がリンクする遊び心

柄のインパクトが強い空間の次は、水色と黄色と白ですっきりとまとまった、とてもおしゃれな部屋が広がります。先ほど通ってきた通路が見える窓があるのですが、そこに黄色のアクセント枠が効いていて、通路を歩く人すらも「アート作品の一部」に見えるような見事な作りでした。思わずパシャリと写真を撮りたくなるスポットです。

さらに進むと、今回の展覧会のチラシにも使われている「黄色と水色のダイヤ柄」の部屋が現れます。この柄は、展示されている『青い服の少年』などの絵画のモチーフから取られたものです。他にも、絵画の背景から取られたモチーフがそのまま壁の柄になっていたり、作品の一部であるストライプ柄が背景になっていたり。絵画と壁紙のコラボレーションによって、ピカソらしい楽しい空間が広がっていました。

■ 色と素材が心に与える影響

闘牛のアートが飾られている真っ赤な部屋では、強烈な赤に目を奪われ、「赤い部屋に入るとこんなにも衝撃的で、気持ちが高ぶるのか」と体感させられました。逆に、戦争時代に描かれた絵画の部屋は、暗く鈍い茶色(煙や土のような色)で構成されており、不気味で重苦しい雰囲気を感じます。感心したのは、この世界観を邪魔しないよう、非常口のマークがひっそりと端の方に配置されていたこと。こうした細やかな配慮も素晴らしいです。

そして、白い空間でのお皿の展示を挟み、最後はマネの『草上の昼食』を再解釈した作品が並ぶ緑の部屋へ。ここではなんと床に人工芝が敷かれています。足裏から伝わる芝の感触と壁の緑色が、気持ちをすーっと落ち着かせてくれました。やはり白い空間は少し緊張感を促すのだな、と改めて感じた瞬間です。足の感触一つで、こんなにも気持ちに変化が生まれるのですね。

■ まとめ

まだまだ展示は続きますが、これまでの一般的な美術展とは異なり、空間のしつらえ(壁の色、大胆な柄、床の素材)と絵画の組み合わせを全身で楽しめる、非常に革新的な展覧会でした。

変化する空間の色と、それに伴う自分の感覚の変化を味わえるこの展示は、インテリアや色彩に興味がある方には心からおすすめしたい内容です。

■ 展覧会概要

ピカソ没後50年記念『ピカソ meets ポール・スミス』展

会期
2026年6月10日(水) ~ 2026年9月21日(月・祝)
休館日:毎週火曜日
*ただし8月11日(火・祝)は開館、8月12日(水)は休館

開館時間
10:00~18:00
毎週金・土曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで

会場
国立新美術館 企画展示室2E
〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2

※休館日や開館時間などの詳細は公式サイトにてご確認ください
ウェブサイト: https://www.nact.jp/exhibition_special/2026/picasso_paulsmith/